5月29日で『ルワンダ中央銀行総裁日記』の本の記録を,とハードディスクの中から掘り起こしたときに,2002年頃に読んだ本と行った美術館・音楽会のリストと簡単な感想が出てきました.最近,ネタがないので(というか,忙しすぎ!)ついでにアップします.

リスト全てはアップしていません.また表現が雑なところや今だとこうは思わないだろうという部分がありますが,備忘録程度に書き留めただけのものですのでご海容ください.

December, 2002
石光真清『曠野の花』『望郷の歌』『誰のために』中公文庫
明治元年に生まれた石光氏の手記2〜4.日露戦争やシベリア動乱の頃に大陸で諜報活動をした様子.情に熱く自分をまげない人だった.だが,その人生は失意の多いものとなった.

December, 2002
『ダーク・ブルー』
チェコ映画第2次大戦チェコがナチに占領されたとき,英国空軍に参加したチェコパイロットの,大戦時とその後(共産主義化のチェコでの様子).救いのない映画だった.人間の尊厳性のようなものを感じたけれども,作り方がイマイチな(主人公達ががきれいすぎる,恋のおちいり方が現実っぽくない)気がした.

December, 2002
デカルト方法序説岩波文庫
けっこう好きかも.また読み返したい.

November, 2002
レンブランド展
人物画が多かった.年をとってから描いたものがとくに好き.ヘンドリックスを描いたとても好きな絵があった.

November, 2002
菅谷明子『メディア・リテラシー岩波新書
一気に読む.

この本とは違うけれど,メディアの役割にはいろいろあって,その中には「世論を導びく」「国民の代表として,政府の政策を検証する」ことがあると思う.日本のメディアは前者に熱心で(世論操作といってもいいけど),後者に弱い印象がする.日本の場合,メディアが独自調査した記事の割合が少なく,(記者クラブなどを通じて)官庁が用意した情報そのままの記事の割合が多いのが特徴らしい.

October, 2002
ひろしま美術館
常設展にピカソやミレーがあった.特別展はマグリットを取りあげていたが,マグリットはあんまり.

October, 2002
Al Ries and Jack Tout『Positioning』McGraw-Hill
企業広報の古典らしい.下の杉田氏の本に出てきた.読んでいろいろと連想した.広報,メディア,映りのいい政治家に惑わされないためにも,読んで損のない本だと思う.

October, 2002
松山幸雄『ビフテキと茶碗蒸し』暮らしの手帖社

「大事なのは,感動すること,愛すること,希望すること,身震いすること」(オーギュスト・ロダン)(p189)

October, 2002
松山幸雄『自由と節度』岩波書店

マルセイユの海を見下ろす丘の上に,フランスの詩人ラマルチーヌの銅像があり,その台座に「国境と偏愛が愛国心をつくるが,友情にはそんなものはない.空のどこに境目があるのだろう」と刻まれていると聞いた.(p78)

「博識であるが,ペダンティックでない.客観的であるが,よそよそしくはない.詳しく調べた労作であるが,退屈ではない.人を動かす力はあるが,決して高圧的ではない.真理を愛するが,非寛容ではない.政治について率直に意見を述べるが,党派的ではない.ビジョンも報道範囲も影響力も世界的ではあるが,常にアメリカの新聞であることを忘れない.(中略)これまで百年間ニューヨーク・タイムズ紙をして,正確,客観性,高潔さと同義語ならしめた基準を今後幾世代にもわたり維持し続けられんことを祈る」(p180)

スイスをよく知る知人によると,スイスではよほどのことでないかぎり,犯罪を報道することはないという.健全な社会が,マスコミの犯罪描写によって汚染されることを防ぐためだそうだ.(p209)

R.チャンドラーの『プレイバック』の中で主人公の探偵マーロウがさらりという台詞をあげる.If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive. (強くなければ生きていけない.優しくなければ生きるに値しない.)(p251)

October, 2002
藤原由紀乃ピアノリサイタル』

んー.

October, 2002
『玉井菜採ヴァイオリンリサイタル』ピアノ:野平一平

よかった! 好きなイザイの「子供の遊び」をアンコールに演奏した.

September, 2002
平山邦夫コレクション,ガンダーラシルクロード美術

September, 2002
杉田敏『人を動かす!話す技術』PHP出版

コミュニケーションやプレゼンテーションの理論的な側面が書かれている.著者は,メディア・トレーニングなど広告以外の広報を手がけているそうだ.NHKラジオ「やさしいビジネス英語」を,以前聞いていた.その講師の本なので買った.本の内容はコミュニケーション論だが,やさしいビジネス英語の会話を思い出させる部分もあった.

August, 2002
天児慧中華人民共和国史』岩波新書

1999年発行のこの新書は,1949年の建国宣言以来五十年の中華人民共和国の歴史を簡潔にまとめている.8月中旬に上海に行った.中国の現代史を断片的でなく一度通しでざっと知りたいと思い読んだ.

August, 2002
関満博『現場主義の知的生産法』ちくま新書

地域産業の開発をテーマにしている著者が,「現場」と付き合い,その過程で,同時代の証言としての報告書や書籍を作成する様子を書いている.持っていく荷物は極力少なくしているという海外調査のカバンの中身が面白かった.また,学生を中国の工場にインターンとして送ったという部分も興味深かった.

August, 2002
上海美術館

June, 2002
カンディンスキー展とシャガール

カンディンスキーの絵は,すごいと思ったけれども,正直言ってよく分からなかった.シャガールの方は,特に晩年の作品で,画家の表現したいものが何となく分かった気がした.

June, 2002
高橋たか子『誘惑者』講談社学芸文庫

道徳的と呼ばれるものもそうでないものも合わせ持った存在.キリスト教的に言うならば,光と闇のどちらにも開かれている存在.でも,(高校生や大学生のときに読んだら違ったかもしれないけど)こういうテーマを面白いとは思わなくなった.今なら,ちょっとテーマが違うかもしれないけど,「しづかなる悲哀のごときものあれどわれをかかるものの餌食となさず(石川不二子)」というような方が好き.

June, 2002
伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』文藝春秋
ホームシックの部分が印象的.要約すると「ホームシックとは,人生から一時降りている状態である.言葉は不自由で孤独で,今の生活は仮の生活であると思いたくなるかもしれない.だが勇気を奮い起こして,それを現実の生活と受け止めよう.そのとき,海外生活は意味を持ってくる」となるだろうか.他の部分はあんまり.

June, 2002
『活きる』(監督:チャン・イーモウ,出演:コン・リー他)
を見る.1994年の作品だが,ここ2週間ほど朝日シネマで上映されている.20世紀中頃の中国に生きる,ある家族の姿を時代の流れの中で描いている.名作と思うけれども,全体的に暗かった.

May, 2002
吉村昭『零式戦闘機』新潮文庫

中国大陸の戦争から太平洋戦争で使われた零式艦上戦闘機ゼロ戦).その誕生から末路までを,設計士や操縦士の姿と共に描いている.力作と感じた.『破獄』と同様,知人のお薦め.

May, 2002
中里恒子『歌枕』講談社学芸文庫

骨董を買いあさり禁治産者の扱いを受けるに至った老舗の主人の鳥羽と,店の下働きに来ていた年若い女のやすが,市井の片隅で暮らし始める.飄々とした鳥羽の晩年の生活と,鳥羽が亡くなったあとのやすの行く先を描いている.中里氏は明治42年生まれで,『歌枕』は昭和47年(63歳)から50年(66歳)にかけて発表された.枯れていると思った.余生を送っている人が読めば面白いのかもしれない…….

May, 2002
J.R.R. Tolkien『The Lord of the Rings

映画で話題の作品.全てを統べる指輪を取り戻そうとする闇の領主サウロンに対して,指輪を担うことになったフロドとその仲間たちの繰り広げる冒険の物語.たしか中学生か高校生のときに日本語訳で読んだはずだけど,内容をさっぱり忘れていたので,楽しんで読んだ.

May, 2002
吉村昭『破獄』新潮文庫

昭和20年前後に四度の脱獄を実行した無期懲役囚の佐久間(仮名)と,かれを閉じこめた男たちの闘いを,時代の流れとともに描いている.初版は昭和58年.読むきっかけは,あるイギリス人が「ハゴクやゼロセンを(英訳で?)読んだ.ヨシムラは素晴らしい」と誉めていたから.現実的な人間観察という気がした.この作者の本は,癌告知を主題にした『冷たい夏,熱い夏』を随分前に読んで以来.

2002?
苅谷剛彦アメリカの大学・ニッポンの大学−TA・シラバス・授業評価』玉川大学出版部

日本の大学で教育学修士を取得後,アメリカの大学で社会学のPh.Dを取得した著者が,日本とアメリカの大学の(文科系の)教育を自らの経験も交えて比較している.理科系出身の私にとって,文科系の教育は私の受けてきた教育と違うところが多いなと思った.

2002?
苅谷剛彦『教育改革という幻想』ちくま新書

教育について語るのは易しいが,実のある議論をするのは難しいと思う.この本は,日本の戦後教育をめぐる論点を,具体的な資料を挙げて検討している.

2002?
Ernest Che Guevara『The Motorcycle Diaries--A Journey around South America』Translated by Ann Wright, Verso

アルゼンチン出身の医師にして,キューバ革命の戦士チェ・ゲバラゲバラ23歳の南米バイク旅行記(1951−52年).まだ最後まで読んでない…….

以下は2001年以前???

ローザ・ルクセンブルグ『獄中からの手紙』岩波文庫

解説によれば,ローザは,ロマン・ロランの小説『魅せられたる魂』に登場するアンネットのモデルになったらしい.文章が瑞々しい.

ソニューシャ,いまわたしがどこにいるのか,あなたにこの手紙をどこで書いているのか,ご存じ? お庭の中よ! わたしはここへ小さな文机をひとつ部屋の中から持ち出してきました.そしてみどり色の灌木に隠れて腰を下ろしています.右手にはチョウジの香りがする黄色いスグリの木,左にはイボタの木,頭の上にはカエデと,ほっそりしたクリの若樹が,互いにさしのべているひろびろとした緑色の手がとどいています.そして前方には,いかめしいなかにやわらか味があるウラジロハコヤナアギの大木が一本あって,その葉末がゆるやかに揺れています.わたしがこうして書いている紙の上では,ふわふわした葉陰が明るい陽射しの環をちりばめて踊りたわむれていますし,わたしの顔や手には,しっとりと雨に濡れている木の葉から滴ががときどきふりかかってきます.(p51)

あなたを抱き,あたたかくお手を握ります.いかなることがあろうとも,落ち着いた,そして朗らかな気持ちでお過ごし下さい.(p99)

Reiner Zimnik『The Crane』Harper&Row

童話.クレーンが好きで,生涯の大部分をその上で過ごした男の物語.中井久夫氏いわく,「日々の力を信じて愚直に生きること.」

Karl Popper『Unended Quest』Open Court

すごい.ただ,もしPopperが現在の分子生物学の発展を見れば,Darwinism をpsudoscience とは呼ばなかったと思う.World 3 の概念と心身問題について,Popper のいくつかの本を読んで整理しておきたいと思う.(もっとも,形而上学に深入りする気はなくて,思うだけになるかもしれないけど…….)

犬養道子『あなたに今できること』中央公論新社 (2001)

HIS(humor, initiative, smile)という言葉と,「なぜ自分と関係ない人を助けなくてはいけないのですか?」

私が学生だった頃に,著者の『国境線で考える』を読んだときには,感銘を受けたのだけど…….この本は,正直にいうと,ツッコミどころがありすぎて精読に堪えない,と感じた.もっとも,著者が,戦後のまだ日本人が海外に出かけるのが難しかった時代から海外の情報を伝えてきたり,長年にわたって難民支援活動をしていることは忘れてはいけないと思う.

Joseph M. Williams『Style: Toward Clarity and Grace』Chicago Univ. Press

わかりやすい文章を書くための方法を,具体的かつ包括的に述べている.

Robert Cialdini『Influence: Science and Practice』Allyn and Bacon

社会心理学の立場からセールスや勧誘の技法を分析し,さらに対処法も述べている.
Scientific American 2月号の著者の記事に興味を持ったのが,この本を読むきっかけ.ただ,この本を読むことで,親しい友人の言動まで社会心理学の色めがねで眺めるようになったら不幸だと思った.

西田利貞人間性はどこから来たか サル学からのアプローチ』京大出版会

価値観が多様化する現在にあって,ヒトに不変なものに焦点を当てた本.人間の欲望などについて少し整理できた気がする.美の意識や犠牲心など人間の可能性について,生物進化からのアプローチをもっと知りたいと思う.

米沢富美子『二人で紡いだ物語』出窓社

著者は物理学者.科学者を目指す人(特に女性)が読んだら,いろいろと影響を受けるかもしれないと思った.

Annie Ernaux『Passion Simple』Folio

わずか67ページのエッセイを読む.アニー・エルノは1940年生まれだから,この本を書いたのは50歳頃か…….この本では,相手のことはぼやかしてあるけれども,実際は,1980年代後半にパリにいた既婚のロシア外交官なんだそう.

Amartya Sen『Inequality reexamined』Harvard Univ. Press

人間の多様性(社会的環境も異なれば,性,年齢,能力も異なる)を前にして,平等は何を基準にするのかを,自由,福祉,貧困などと関連づけて論じている.人が(職業などを)広く選ぶ機会が与えられ,自尊心を持って生きてゆける社会の良さは,経済効率という指標だけでは上手く測れないのだろう.