「太陽」

アレクサンドル・ソクーロフ監督のロシア映画「太陽」を見に行った.昭和天皇人間性を中心した映画.ミニシアターにはかなりの人が入っていた.

映画は,太平洋戦争も終わりに近づいた昭和20年の御前会議に始まり,敗戦後の天皇マッカーサー会談,そして昭和21年の天皇人間宣言に至る.しかし,映画の終わり方がひねっている.

映像については,魚で描いた空襲と,東京の廃墟が私には印象的だった.この手の映画は完全にフィクションと思って見た方がいいのだろうけど,どう捉えるのか難しい.いろいろと思ったことを羅列する.ただ,映画館で一度見ただけなので,見間違い・記憶違いの点はご海容下さい.

  • 最初の場面の御前会議はいつ行われたのか?
    もちろんフィクションで適当に混ぜているのだろう.映画でラジオを聞く場面があって,そこでは沖縄戦を言っていたので,4月から6月頃に思われる.*1しかし,地下防空壕の中での御前会議は,絵画になっている8月9日深夜のものに似ている.会議では,なぜか陸軍が特攻隊について述べている.神風や回天などの特別攻撃は海軍ですよね.また,四方の海で始まる明治天皇の御製を昭和天皇が会議で詠んだけれども,これは,実際にはずいぶん前(昭和16年9月)の御前会議の話ですよね.
  • 大正13年
    カリフォルニア州の日本人排斥問題について触れている.ここはさすがにロシア映画といったところだろうか.ハリウッド映画ではありえないと思った.でも,今確認したのだけど,いわゆる中国人排斥法が施行されたのが1882年,そしていわゆる排日移民法が施行されたのが1924年=大正13年と,1931年の満州事変(柳条湖事件)よりも前なのか.*2
  • 調べているなぁ,と思ったところ.
    昭和天皇は戦争中にチック症状が激しくなったそうだけど,天皇役のイッセー尾形はよく表現していた.昭和天皇の天真爛漫な様子や,「あ,そぉ」という口癖も印象的に使われている.執務室にリンカーンダーウィンの像をおいていたのも調べているなぁ,と思った.もっとも映画では最初は(おそらく)ナポレオン像も置いてあって,後半でナポレオン像をしまうという場面があるのだけど,これは史実に基づいているのだろうか.

「太陽」は,当初,日本では上映されないだろうと言われていたそうだ.そういう物珍しさもあって見に行った.しかし,見てもいいけど,見なくてもよかったという気もする.上でも書いたけれど,この映画はフィクションと思って見るのが安全なのだろう.

*1:以前に,ひめゆり平和祈念資料館を訪れたときは,重い歴史にただ圧倒された.

*2:吉田満の『祖国と敵国の間』を読んだことがあるけれども,年代を全く気にしていなかった.