『公主帰還』

公主帰還 (講談社文庫)

公主帰還 (講談社文庫)

井上祐美子『公主帰還』を読んだ.中国の宋代(960--1279)を舞台にした7つの短編小説.時代は太祖の趙匡胤から靖康の変を経て南宋の初めまで,登場人物は時の皇帝から武人から市井の人々と変化に富んでいる.

いずれの小品も淡々とした筆致で書かれていて,あっという間に読んでしまった.私には,最後の「涅(すみ)」が面白かった.宋軍の一兵卒だった狄青(てきせい)は,西夏軍との戦いの中で勝利をおさめながら,宋の軍務副大臣という高位まで上る.狄青の顔には一兵卒だった印として涅が入っている.時の皇帝の仁宗に,そちは一兵卒ではなくて上に立つべき者だ,涅は除去する必要があると言われ,狄青は…….