『不動心』

しばらく前に読んだ本.

不動心 (新潮新書)

不動心 (新潮新書)

2006年5月,松井選手は試合中にスライディングキャッチを試みて,左手首を骨折するという怪我に見舞われた.この骨折とその後のリハビリを中心にこの本は書かれている.起こってしまったことを悔やむのではなくて,常に未来に目を向けているのが印象的.

僕の左手首は,医学上は完治しても,野球選手として元通りにはならないでしょう.しかし,元に戻らないならばトレーニングや打撃フォームを工夫して進化すればいいのです.いつか「骨折してよかった」と言える日を思い描いて,頑張っていくつもりです.人間万事塞翁が馬.そう信じれば,決して絶望する必要はありません.(p.51)

要するに,「もしも」と想像するのは,単なるお遊びでしかありません.何度も繰り返しますが,人間万事塞翁が馬.思い通りに事が運ばずとも,落胆せず,前へ進むしか道はないのです.そのうち,きっと「この道でよかった」と思える日がくるのではないでしょうか.(p.57)

上の言葉は,松井選手自身の経験から来ているようだ.高校生の時には甲子園で5打席連続敬遠された.しかし,連続敬遠があったから,松井選手は日本中で注目され,4球団からドラフト1位で指名された.ドラフトで当たりクジを引いたのは,希望していた阪神ではなく巨人だったが,その結果,松井選手は長嶋監督と出会った.1998年の春期キャンプ中に23歳の松井選手は膝を痛めた.このとき,手術をせず,膝の怪我と選手生命を通じて付き合っていく覚悟を決めたという.そして,外的な治療やトレーニングだけでなく食生活にも気をつかうようになり,結果として(膝の怪我にもかかわらず)この年にホームラン王と打点王の二冠という初タイトルを獲得した.

この本ではほかにも松井選手の心構えがいろいろと書かれている.キーワードであげれば,柔軟な発想,「過度の思い込みは嘘よりも危険な真理の敵である」,適度な遊び,ストレス発散などなど.スーパースター的な存在であるにもかかわらず,書き方は親しみやすく読んでいて元気が出てくる本だと思う.

連想

本を読みながら,アメリカの牧師ニーバーによる「平安の祈り」を思い出した.

神様,私にお与えください.
変えられないものを受け入れる落ち着きと
変えられるものを変える勇気と
二つを見分ける賢さを
ラインホールド・ニーバー「平安の祈り」)*1

私はこの言葉に少し引っかかるところがあるのだけど,別の話なので改めてということで.

連想2

日本人選手の大リーグ挑戦への道を(事実上)開いた野茂選手は偉大だー.

*1:God, give us grace to accept with serenity the things that cannot be changed, courage to change the things that can be changed, and the wisdom to distinguish one from the other(The Serenity Prayer, Reinhold Niebuh)