最近読んだ本『柳絮』

柳絮 (中公文庫)

柳絮 (中公文庫)

『公主帰還』が面白かった(公主帰還 (中公文庫)で復刊されているみたい)ので,ずいぶん前に同じ著者のこの本を買った.ずっと積読のままになっていた.

4世紀,江南に位置する東晋.名家である謝氏の女性,道韞が,老年に自らの生涯をふりかえる.「柳絮の才」と謳われた道韞が,やはり名家である王家の凝之(書聖,王羲之の息子)と婚礼を挙げるときから,弟の謝玄が華北前秦と淝水の戦いで勝利をおさめたこと,貴族社会であった東晋が衰退してゆく様子が語られる.生々流転というように過去を振り返る道韞の語りは淡々としており,この本の終わりでは,むしろ将来の,宋(劉宋,420--479)の建国者となる劉裕に希望をもっているように感じられる.

王氏のご兄弟は,戦乱の世を生きるにはやさしすぎる方々ばかりでした.話に聞く王導さまのような政治力も,王郭将軍のような覇気──他人を押しのけてまで,目的を達しようという貪欲さにも欠けておられたように思います.

(中略)

それは人としては,善良な生き方でしたでしょうけれど,やはり力の時代には不向きだったと思います.そして,世の中は,家柄や容姿でなく,本人の力によって人に認められる時代に,はじめは徐々に,やがて目に見えて急速に変わっていったのでございます.

面白かった.