本,そして……

(うーん,しばらく更新しないと Google の広告がのるみたい.)

私たちはまた,しばしば真実があまりにも残酷であることを知っている.そして,(真実に直面するよりも)幻想にひたっている方が心安らぐのではとさえ夢想する.
アンリ・ポアンカレ(1854-1912)

上の文章は,Carl Sagan の The Demon-Haunted World: Science as a Candle in the Dark asin:0345409469 にのっていたもので,原文は

We also know how cruel the truth often is, and we wonder whether delusion is not more consoling. Henri Poincare (1854-1912)

です.かなり意訳しています(誤訳気味)…….


冷い夏、熱い夏 (新潮文庫)

冷い夏、熱い夏 (新潮文庫)

もう15年ほど前になると思うのですが,吉村昭『冷い夏、熱い夏』 (新潮文庫)を読みました.吉村氏が書いた中で,私が初めて読んだ本でした.この本は,実話に基づいて,吉村氏の弟が肺癌になり亡くなった様子を書いています.吉村氏は弟に癌を告知しないことに決めます.弟は,壮絶な闘病生活を経て亡くなります.いま手元に本がないのですが,弟はうすうす自分が癌であることに気づいていたのではないか,でも,兄である吉村氏を非常に信頼していた,というように思った(書かれていた?)記憶があります(うろ覚えなので,間違っていることを書いているかもしれません).いまは,精神的なサポートも十分考えながら,癌は告知することが多くなっているらしいですので,吉村氏の上の本は一昔前のことになっているのかもしれません.


「死への準備」日記 (文春文庫)

「死への準備」日記 (文春文庫)

ところで,こちらも同じ頃に読んだと思うのですが,千葉敦子『「死への準備」日記 』という闘病日記を朝日文庫版で読みました.ニューヨーク在住の千葉氏が,再発した癌との闘病を綴っています.千葉氏は自分が癌であることをもちろん知っていて,さらに自分が今どういう状態かを医者から十分に伝えてもらい,残された時間をどう過ごすか自分で選び(変な言い方ですが前向きに)生きます.(こちらも,本はもう手元にないのでうろ覚えです.)

吉村氏の弟の場合と,千葉氏の場合は,ずいぶん違うなあと,読んだ当時に思いました.



一番上に引用した科学者ポアンカレの言葉ですが,真実があまりにも残酷なとき,真実から目をそむけたいと誰でも思うのではないでしょうか.しかし,私自身は,目をそむけたくても,つらくても,真実を知った方がいいのではと思います.そして,真実を知った上で,どういう選択肢が自分にあり(ときには選択肢はほとんどないかもしれませんが),その選択肢から自分でよいと思ったものを選ぶのが良いのではと思います.(自分がそうかどうかは別にして)こういう態度は high internal locus of controlWikipedia:Locus_of_control)とよばれるのでしょうか,こういう態度の方が精神衛生上も良いようです.


そして,残酷な真実を知っている人がいたとき(その人が医者であれ,科学者であれ,政府の人であれ),ありのままに,過小でも過大でもなく知らせてくれると,辛くても,その人は信頼できる人だなと感じます.

お気づきの通り,この文章は,福島原発について書いています.汚染地域のことを除いて,一応の終結を見るまでどれだけの時間がかかるか分かりませんが,そしてどういう終結になるか分かりませんが,もちろん日本がなくなることはないので,癌の場合とは全然違うと言えば違うのですけれども.